通訳・コーディネーター真鍋実恵さん×プラザクリエイト新谷社長 特別対談(第3回)パリで学んだ「物語(ストーリー)重視」ー効率よりも大切なこと

新谷社長がフランスの展示会で出会った、パリ在住の通訳・コーディネーターの真鍋実恵さん。本企画では、そんな出会いから始まったお二人の対話を通じて、展示会で得た気づきや、これからのブランドづくりのヒントを4回に渡って紐解いています。
パリで過ごす日々の中で、新谷社長が強く感じたのは、「この街そのものが物語を持っている」ということでした。石畳を歩けば目に入る古い建物、マルシェの雑多で色鮮やかな風景、そして時間の流れ方……。
第3回では、そんなパリの日常の風景から見えてきた「暮らし方の哲学」と、それが仕事やブランドづくりにどうつながるのかを、パリ在住15年の真鍋さんと語っていただきます。
参加者PROFILE

真鍋実恵(まなべ みえ)
大学卒業後、単身渡仏してパリ市内の服飾専門学校に通い、パタンナーとして複数のアトリエで修行する傍ら服作りを開始。その後自身のアパレルブランドを立ち上げる。現在はモード業界での経験を生かし、主にファッション系展示会での買い付けアテンドやリモートバイイング、企業の出展サポート・商談通訳等を行う。パリ郊外在住。

新谷 隼人(しんたに はやと)
株式会社プラザクリエイト 代表取締役社長
広告代理店勤務を経て、株式会社リクルートに転職し、3年連続でMVPを獲得。リテール新規開発グループやカスタマーサクセス領域にてマネージャーとして活躍。2019年に株式会社プラザクリエイトへ入社。取締役を経て、2022年より代表取締役社長に就任。
「街そのものが物語」積み重ねられた時間が生む風景

パリの街を歩いていると、ただの風景じゃないと感じるんですよね。古い建物がきれいに残されていて、「何十年も前から大切に使われてきたんだろうな」と思える空気感がある。



全部壊して新しくするのではなく、いいところだけ手を入れて長く使うという発想が、建物にも暮らし方にも根づいているんですよね。



その“時間を積み重ねていく”感じは、日本にはあまりない文化ですよね。新しいものより「残すこと」に価値を感じているんでしょう。



ええ。街の景色すべてに「物語」があるんです。







あとは、マルシェも印象的でした。野菜や果物の並べ方。効率よく同じものをまとめるんじゃなくて、バナナの隣にマスカット、リンゴの横にトマト……というふうに、あえてバラバラに置かれているのに不思議と美しいんです。



フランス人って、デザインの勉強をしているわけじゃなくても、自然に「見せる力」を持っている感じがしますね。雑多なのに整っていて、しかも色のバランスがいい。効率よりも、美しさを重視しています。





物事に対する価値観も違ってきそうですね。



日本と比べて大きく違うのは、時間の流れ方でしょうか。効率よく「終わらせる」じゃなくて、時間そのものを楽しむ傾向があります。



時間そのものを楽しむ、とは?



例えば、レストランでも、食べることだけじゃなく、人と一緒に過ごす時間そのものを大事にします。フランスの人たちにとって、食事は大切なコミュニケーションなんです。



でも、パリで思ったのは、外食は「高いな~」ということ。今は円安なので、特にそう思ったのかもしれませんが。





いえいえ。パリに住んでいても外食は高いと感じますよ。だから気軽には行けません。その代わり、集まったときはゆっくり時間をかけて、会話をしながら食事をします。



なるほど。それが、人と一緒に過ごす時間そのものを大事にするということなんですね。


知らない人からも「ボンジュール」──人との距離が近いパリ



あと、パリでは、目が合えば他人同士でも必ず笑顔で返してくれますよね。街を歩いていたら、知らない人から「ボンジュール」と声をかけられて驚きました。



人との距離感が日本とまったく違うんです。公園や広場で音楽が流れ始めると、そこにいる人が自然と集まってきて、初めて会った人同士でも踊り出す。レストランやカフェでも隣のテーブルの人とちょっとした世間話が始まります。私も最初は驚きましたけど、今ではそれが当たり前になりました。



あの距離感は日本ではなかなかないですよね。日本だと、人との間に“見えない壁”を置くことが多いですから。





パリではその壁がずっと低い。誰かと同じ時間や空間を共有している感覚が強いなと感じます。



なぜ、そうなのでしょう?



レストランの話とも通じますが、フランス人は家族や恋人と分け隔てなく「一緒にいること」をとても大切にします。友達同士の集まりに恋人を同席することや、恋人の両親と週末にご飯を食べることも多いです。私の夫はフランス人なのですが、まだ付き合って間もないころに、彼のご両親の家に連れて行かれて驚きました(笑)こんな風に、結婚する前からしょっちゅうお互いの実家を行き来することは、フランスでは珍しくないんです。



日本のように、結婚した後でも「実家に帰るのはお盆と正月だけ」なんて、フランス人にとっては考えられないでしょうね(笑)



そうですね。フランス人は、個人の時間はしっかり大事にしながらも、人と人が混ざり合う時間も楽しむ。そういう価値観が、日常の中に自然と息づいているんだと思います。



街そのものが「人とつながるための仕掛け」になっている感じがしますよね。そこから、物語が始まる……というか。





どういう意味でしょうか?



広場が多いなと。そこに人が集まることで、偶然の出会いが生まれやすいんだろうなと思います。



それは確かに言えますね。


効率よりも大切な「物語」で選ぶ生き方



そういえば、メトロに乗っていた時に「この期間は運休します」というお知らせを見て、驚きました。



電車がストライキや工事で止まるなんて日本では大事件ですが、フランスでは「そういうもの」として受け入れられるんです。日本だと「遅延=迷惑」ですが、フランスでは「まあ仕方ないよね」で終わりますよ。



なぜ、そうなるんでしょうね。



便利さやスピードよりも、今の時間をどう過ごすか、に意識が向いているから、という気がします。効率の良さよりも「どう生きるか」「何を大切にするか」を優先している国なので。



その感覚は、ものづくりやブランドにも通じるものがあると感じますね。というのも、展示会でも、スペックや価格の話より「どうしてこれを作ったのか」というストーリーから説明が始まるのが印象的でした。



ヨーロッパの人たちは、どこで誰が作ったのか、どんな思いが込められているのかを大切にします。それが納得できれば、多少高くても欲しいと思える。そこには、数字や効率では測れない価値があるんです。コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスといった便利さとは、また違った軸ですね。



日本では「どれだけ便利に、安く、早く」が大事にされがちですが、パリでは違う。暮らしそのものに“物語”があるからこそ、ものの見方や選び方が変わるんでしょうね。



そう思います。



街に流れる時間も、人との関係も、ブランドの作り方も、すべてに一貫した「物語(ストーリー)を大切にする文化」があるんだと学びました。


(この記事の取材・執筆者)
綾部まと
三菱UFJ銀行の法人営業、経済メディア「NewsPicks」を運営するユーザベースのセールス&マーケティングを経て、独立。フリーランスのライター・作家として、インタビュー記事、エッセイやコラムを執筆。フランス・パリ近郊の町に在住。3児の母。趣味はサウナと旅行。
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